骨粗鬆症の薬で顎の骨が溶ける?危険性やリスクを減らす方法を解説

骨密度が低下して骨折リスクが上がる病気が「骨粗鬆症(こつそしょうしょう)」です。骨折により動けなくなると、筋肉が落ち、最悪の場合寝たきりになるリスクもあります。[1]

「骨粗鬆症の薬で、顎の骨が溶ける」と聞き、飲んでも大丈夫なのか不安に思っているのではないでしょうか。

骨粗鬆症の薬が顎の骨に影響を与えるのは事実で、最悪の場合、骨が溶けるケースもあります。しかし、全員の骨が溶けるわけではなく、適切な対応によりリスクは軽減可能です。

この記事では、骨粗鬆症の薬で顎が溶けるといわれる理由や症状、治療法などを解説します。リスクを下げる方法も説明しているので、ぜひ最後まで読んで参考にしてください。

目次

骨粗鬆症の薬で顎の骨が溶ける可能性はある

顎の骨が溶ける可能性があるのは、骨密度を上げる「ビスホスホネート系」という薬です。

ビスホスホネート系薬剤を服用している人が、抜歯(ばっし:歯を抜くこと)をしたり、歯周病になったりすると、顎の骨に負担がかかり、最悪の場合溶ける可能性があるのです。とくに使う薬の量が多い人や、長く薬を飲んでいる人はリスクが上がるとされています。[2]

よく使われるビスホスホネート系薬剤は、以下のとおりです。[3][4][5][6][7]

成分名(ジェネリック医薬品名)先発品名薬のタイプ
アレンドロン酸ナトリウム・ボナロン
・フォサマック
飲み薬
点滴
リセドロン酸ナトリウム・ベネット
・アクトネル
飲み薬
ミノドロン酸・ボノテオ
・リカルボン
飲み薬
イバンドロン酸ナトリウム・ボンビバ飲み薬
注射
ゾレドロン酸・ゾメタ
・リクラスト
点滴

ただし、骨粗鬆症の人に顎の影響が出る確率は1,000人〜100万人に1人程度と低いため、過度に心配する必要はありません[2]

副作用を恐れて自己判断で薬を中止すると、骨密度が徐々に低下して骨折し、最悪の場合、寝たきりになる可能性も考えられます。丈夫な骨を保ち元気に暮らすために、気になる副作用がなければ骨粗鬆症の薬は飲み続けるようにしましょう。

骨粗鬆症の薬は危険なのか

骨粗鬆症の薬は、医師の指示を守って正しく服用していれば決して危険な薬ではありません

ビスホスホネート系薬剤には、先ほど説明した「顎の骨に関する副作用」のほかにいくつかの注意点があるため「危険」だといわれるのでしょう。

注意点と注意が必要な理由は、以下のとおりです。

注意点理由
朝起きてすぐに飲まなければならない胃の中で食べ物や他の薬といっしょになると吸収されないから
飲んだら30分横になってはいけない口の中やのどに錠剤が貼りつくと、粘膜が傷つく可能性があるから

どの内容も注意点を守って服用すれば、必要以上に怖がる必要はありません。

ただし、寝たきりや体調が非常に悪いなど、身体を30分(薬によっては60分)起こしたままでいるのが難しい人は、ビスホスホネート系薬剤を飲めないことになっています。[3][6]

飲み薬のビスホスホネート系薬剤が合わない場合、違うアプローチ方法の薬や注射薬に変える方法もあります。薬に関して不安な点は、医師、薬剤師へ気軽にご相談ください。

顎の骨に関するリスクを減らすには事前の歯科治療が大切

顎の骨へのリスクを減らすために、歯科治療は骨粗鬆症の薬を始める前に済ませるのがおすすめです。[2]

毎日歯磨きをしていても、歯周病や虫歯になる人は珍しくありません。歯医者にかかる習慣のない人は、骨粗鬆症の治療開始前に一度、歯科検診を受けましょう。また、半年や1年ごとに歯医者へ通っている人も一度受診し、必要な治療を済ませた状態で薬を飲み始めるとリスクを軽減できます。

歯を抜いた後、傷が治るまでにかかる期間は約2週間です。リスクを減らすため、傷が治ってから薬を開始することが一つの目安となります。細かな日程は傷の治りや持病の有無などにより個人差があるため、医師と相談のうえ決定します。

骨粗鬆症の薬を飲みながら歯科治療を受ける際の注意点

骨粗鬆症の薬を飲み始めてから歯科治療を受ける際は、以下の点に注意しましょう。

  • 定期的に歯科へかかり、口や歯の状態を確認する
  • 受診時は必ず骨粗鬆症の薬を飲んでいることを伝える
  • 歯科で指導された歯磨き方法を守り、口の中の健康を保つ
  • 歯科医から骨粗鬆症の薬をやめる指示が出た際は必ず守る

飲んでいる薬を正しく伝えれば、抜歯が必要になっても歯科医と整形外科医が連携し、リスクの低い処置が可能です。

歯科へ骨粗鬆症の薬を伝える際は「お薬手帳」を見せると、飲んでいる薬の名前を簡単かつ正確に伝えられます。ぜひ利用してみてください。

骨粗鬆症の薬で顎の骨が溶ける原因とメカニズム

骨粗鬆症の薬で顎の骨が溶ける原因は、以下の2つが考えられています。[2]

  • 薬の影響で骨の入れ替わりサイクルが変わると、抜歯による顎の骨のダメージを回復できないから
  • ダメージを受けた顎の骨に歯周病や虫歯などの細菌が感染すると、強い炎症が起こり骨がさらにダメージを受けるから

つまり、薬自体が顎の骨を溶かすわけではなく、抜歯や細菌により傷ついた顎の骨が薬の影響でうまく回復しないと、最悪の場合溶けるのです。

そのため「定期的に歯科にかかり口の中を衛生的に保つこと」「抜歯の際は薬の影響を考慮できるように飲んでいる薬を正しく伝えること」の2点が、非常に大切です。

顎の骨が溶けるとあらわれる症状

骨粗鬆症の薬で顎がダメージを受けたり溶けたりした際にあらわれる症状を、進行度合いごとにまとめました。[2]

進行度合い症状の例
ステージ0・歯が揺れる
・顎の鈍い痛み
・副鼻腔の痛み
・歯周病かもはっきりしない歯痛
ステージ1・症状はなく、細菌感染のない状態で骨が露出している
・感染のほぼない歯が自然に抜ける
・抜歯後に穴が開いた状態だが膿はない
ステージ2・骨が露出しており、感染や炎症がある
・痛みや赤みがある
・膿はある場合とない場合がある
ステージ3・フェイスラインを作る顎の骨、上顎、鼻、頬骨などの広い範囲の骨の露出・壊死がある

ステージが上がるほど炎症の範囲が広くなり、痛みや壊死した骨の状態が悪くなります。

具体的には、以下のような症状があらわれた際は、副作用が出ている可能性が考えられます。

  • 顎が腫れてきた
  • 口の中に痛みがある
  • 下くちびるのしびれがある
  • 歯がぐらぐらして自然に抜けた
  • 抜歯後の痛みがなかなか治まらない
  • 歯茎に白色や灰色の硬いものが出てきた

診断には、顎の状態を確かめるX線(レントゲン)やCT、MRIなどがおこなわれます。気になる症状が出た際は、歯科もしくは口腔外科を受診しましょう。

骨粗鬆症の薬で顎の骨が溶けた場合の治療法

骨粗鬆症の薬で顎の骨が溶けた際は、以下の治療がおこなわれます。[2]

治療法具体例
保存的治療・顎の洗浄
・抗菌薬を使用したうがい
・細菌感染した部位への抗菌薬注入
外科的治療・壊死した骨や周りの骨の切除

症状が軽く、細菌感染のない場合(ステージ1)は保存的治療と外科的治療のどちらか、症状が進行して腫れや膿みがある場合は外科的治療がおこなわれるケースが一般的です。

なお、顎の骨に対する治療をおこなう際にビスホスホネートを続けるか中止するかは、医師によって意見がわかれます。

基本的には、症状や本人の希望に応じて状況に合わせた治療がおこなわれます。

骨粗鬆症の薬と顎の骨が溶ける関係についてよくある質問

骨粗鬆症の薬と顎の骨が溶ける関係についてよくある、以下の質問にお答えします。

  • 骨粗鬆症の薬を飲み始めたら歯を抜いてはいけないの?
  • 骨粗鬆症の薬で顎が溶けやすくなる人はどんな人なの?
  • 骨粗鬆症の薬をやめたい場合はどうしたらいいの?

細かな疑問を解消すれば、薬に対する不安も軽減できるでしょう。

骨粗鬆症の薬を飲み始めたら歯を抜いてはいけないの?

骨粗鬆症の薬を飲み始めてからも、歯を抜くことは可能です。[2]

ただし、以下の人は治療の最低3か月前からビスホスホネート系薬剤を中止するのが一般的です。

  • ビスホスホネート系薬剤を3年以上服用している人
  • ビスホスホネート系薬剤の服用は3年未満だが、ステロイド剤を合わせて使用している人

薬を中止した場合、処置後の歯や骨の状態が回復してからビスホスホネート系薬剤を再開します。

骨粗鬆症の薬で顎の骨が溶けやすくなる人はどんな人なの?

以下の人は、骨粗鬆症の薬で顎の骨が溶けるリスクが高いとされています。[2]

  • 肥満の人
  • 糖尿病の人
  • 重度の貧血がある人
  • 人工透析を受けている人
  • 口の中の衛生状態が悪い人
  • 喫煙・飲酒の習慣がある人
  • 歯周病やインプラント周囲炎などの感染性疾患がある人
  • 免疫抑制剤、抗がん剤、ステロイド剤などを服用している人
  • ビスホスホネート系薬剤の服用量が多く、長く服用している人
  • 骨関係の疾患(骨軟化症、ビタミン D 欠乏、骨パジェット病)の人
  • 自己免疫疾患(全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、シェーグレン症候群など)の人

感染症になりやすい、もともと骨が弱いなどの人は、定期的な歯科受診や歯磨きを忘れずにおこないましょう。

骨粗鬆症の薬をやめたい場合はどうしたらいいの?

骨粗鬆症の薬をやめたい場合、自己判断での中止はせずに必ず医師へ相談しましょう。

薬を勝手にやめると骨密度が大幅に低下し、骨折リスクが高まるためです。とくに女性は閉経すると、女性ホルモン低下によって骨密度が低下し、骨折リスクが上がる傾向があります。[8]

骨粗鬆症の薬には、ビスホスホネート系薬剤以外にカルシウムの吸収を高めるタイプや、女性ホルモンのような薬により骨密度を高めるタイプもあります。

薬について気になる点は、医師へ気軽にご相談ください。

骨粗鬆症の薬に関する不安は医師へ相談しよう

骨粗鬆症の薬によって顎の骨が溶ける可能性はあります。しかし、リスクは決して高くなく、医師の指示のもと適切なケアをすればリスクは軽減できるでしょう。

◎◎クリニックでは、骨粗鬆症の治療を積極的におこなっております。骨密度や年齢、患者様の希望などから、医師が適切な薬を処方します。

骨粗鬆症は、自分の状態を理解して正しく薬を続けることが大切です。薬について気になる点は、◎◎クリニックまで気軽にご相談ください。

参考文献

[1]骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会(日本骨粗鬆症学会・日本骨代謝学会・骨粗鬆症財団)“骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版”.(2024.12.20)

[2]顎骨壊死検討委員会“薬剤関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023”(2024.12.20)

[3]独立行政法人医薬品医療機器総合機構“医療用医薬品詳細表示ボナロン錠5mg”(2024.12.20)

[4]独立行政法人医薬品医療機器総合機構“医療用医薬品詳細表示ベネット錠2.5mg”(2024.12.20)

[5]独立行政法人医薬品医療機器総合機構“医療用医薬品詳細表示ボノテオ錠1mg”(2024.12.20)

[6]独立行政法人医薬品医療機器総合機構“医療用医薬品詳細表示ボンビバ錠100mg”(2024.12.20)

[7]独立行政法人医薬品医療機器総合機構“医療用医薬品詳細表示ゾメタ点滴静注4mg/5mL”(2024.12.20)

[8]松崎英剛.“閉経後骨粗鬆症”.J. Nihon Univ. Med. Ass., 2021; 80 (4): 181–185)

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この記事を書いた人

調剤薬局に9年勤務した経験をもとに、医療・健康ジャンルで執筆しているWebライター兼ディレクター。

論文やガイドラインをもとにした正確な内容を、論理的に分かりやすく伝えるのが得意。

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